デベロッパー8社が生んだ画期的なツインタワー
旧国鉄の汐留貨物駅跡地に汐留シオサイトが誕生したのは2000年代初頭のことだ。開発規模は約31haと破格の広さ。日本テレビ本社ビルをはじめ、オフィス、ホテル、レストラン、ショップなどが集まる新しい街は大きな話題を呼んだ。
その一街区を占めるのが47階建てのツインタワー「東京ツインパークス」だ。三菱地所、三井不動産、住友不動産などデベロッパー8社の共同事業は当時としては異例。総戸数1000戸のスケールや、最高5億円、平均でも1億円を超す振り切った価格など、現在の都心タワーマンションにつながる画期的な取り組みが行われていた。
「都心で働く人たちには羨望の的でした。私も憧れた一人です」
こう語るのは管理組合の理事長、橋本友希さん。設計の仕事に就く橋本さんにとっては、最新の建築技術が取り入れられた点にも興味をそそられたという。
「例えば、耐久性や耐震性については当時としてはトップレベルの性能が取り入れられています。地震対策としては制振構造によって一般的な超高層ビルよりもさらに高い耐震性能があり、長く安心して暮らすことができます。私自身、超高層のオフィスビルを設計していたので、『一度は住んでみたい』という気持ちが強かったのです」
さらに、汐留という立地も、橋本さんには理想的だった。
「購入した当時、私は40代の働き盛り。仕事が大変忙しかったので、勤務地に近い点で心惹かれました。職場からは徒歩でも20〜30分ほど。時間があるときは歩いて帰ることもよくありました。また、将来的なビジョンとして、ここを拠点にしてさまざまな活動を計画していました。実際、フリーランスの建築コンサルタントとなった現在は、アクセスのよいこの立地が役立っています。もちろん、プライベートでも銀座、築地、芝公園などが近く、新橋駅からはほぼ地下道で雨に濡れずに帰れます。アクティブに暮らすには絶好の場といえますね」(橋本さん、以下同)
世界的なデザイナーを起用した色褪せないデザイン
デザインもまた革新的だ。追求されたのは「200年後も色褪せないデザイン」。共用部のデザイナーにはアメリカを代表するインテリアデザイン事務所「ウィルソンアソシエイツ」を、住戸内は同じくアメリカの人気デザイナー、バーバラ・バリーを起用。エレガントで気品あふれる空間が生み出されている。
なかでも息をのむのはメインロビーだ。3層吹抜けの高い天井、幾何学模様を描く大理石の床などダイナミックで華麗な大空間はまるでオペラの舞台を眺めているかのようだ。
「名匠が設計したゴルフ場はそこにいるだけで気持ちがよいものですが、マンションも同じです。デザインした人たちの意図を感じながら暮らすことで、心まで豊かになる感じがしますね」
メインロビーの下にある地下ロビーも目を見張るほど壮麗だ。曲線を描く階段は、木とオニキスの壁が彩り、異次元への抜け道のよう。地下には車寄せがあり、送迎の車をつけたり、タクシーの乗降場所としても利用されている。
「会社に勤めていた頃は仕事が忙しく、連日のように深夜帰り。地下の入口の光で落ち着きましたね。居住者の多くがこのデザインに心地よさを感じています。竣工時から暮らし続ける方が多いのは、美しい共用空間も理由の一端でしょう」
メインロビーの両脇にはレフトウイングとライトウイングのエントランスが設けられている。それぞれコリドー(回廊)を通じてエレベーターホールにつながり、途中には会議室などの共用施設が配置されている。特に目を奪われたのはラウンジだ。それぞれインテリアに趣向が凝らされ、ラグジュアリー感はホテル並み、いやそれ以上だろう。
共用施設や庭園は時代に合わせて更新
ラウンジや会議室以外にも、ジャグジー付きのゲストルーム、ゴルフレンジ、ワインセラー、パーティールームなど多彩な共用施設が設けられている。
「ゲストルームは棟によって個性があり、ライトウイングは大きなジャグジーが特徴です。今でも稼働率は高く、抽選になるぐらいの人気です。対してレフトウイングのゲストルームは107㎡の広さがあり、住戸の仕様をそのまま活かしているのでくつろげます。私がよく使うのはパーティールーム。友人が大勢遊びにきたときに便利です」
取材当日、ゲストルームはどちらも予約が入っているとのことで、橋本さんが案内してくれたのはパーティールームだ。2層吹抜けのスペースからは目の前の浜離宮恩賜公園やその先の勝どきや晴海、豊洲など湾岸エリアの街並みも一望できる。この景観は招かれた人たちも喜ぶだろう。
「共用施設は一つ一つの質が高く、大変満足しています。ただ、あまり使われていないところもあるので、居住者のニーズを図りながら見直しをしています。最近では在宅ワークの増加を受けて、ライトウイングの4階にあるフィットネススタジオの一部をワーキングスペースに改修しました。若い理事の方から仕事をする場にはWi-Fiもほしいとの声があり、併せて導入しました」
リニューアルしたその一室へと案内してもらうと、窓に面してラウンド型にカウンター席が配置され、開放感は満点。個室ブースも完備されているからオンライン会議も気兼ねなくできそうだ。
一方、屋外の庭園についても6年前に更新がされている。
「このマンションにはエントランス前のエバーグリーンガーデンと、5階部分にある住人専用のシークレットガーデンという2つの庭園があるのですが、植栽の傷みが気になっていました。そこで6年前に、造園業者をコンペで変更し、枯れかけている木を植え替えるなど徹底的に見直しました。造園業者とは5年契約にし、業者の裁量で自由に使える補植費を渡すという試みもしています。おかげで緑が生き生きとして気持ちいい空間になりました」
同時に、竣工時から植栽の背丈が伸びたため、LED化の際に照明の高さや当て方も変更。夜の風景も一段と潤いが増したそうだ。
息を吹き返したガーデンでは、朝6時30分から住人有志によるラジオ体操が実施されているそう。
「夏場だけは管理組合の協賛にしていますが、多い時で20人ぐらい集まります。お子さんの参加も多いですよ」
ほかに、管理組合として夏にはエバーグリーンガーデンで納涼祭を、冬にはメインロビーでクリスマス会を開催している。納涼祭はエバーグリーンガーデンにさまざまな模擬店がずらりと並ぶ。忙しい住人が多く、今年からはイベント企画会社に外注を予定しているそうだ。クリスマス会は2部制で、1部はプロのアーティストを招いての音楽会、2部はビンゴ大会がメイン。サンタクロースやトナカイもやってきて、子どもも大喜びだとか。
「時を経て魅力を増す」管理を実践
竣工から20年。管理組合が目指してきたのは「時を経て魅力を増す」管理だ。先述の共用施設や庭園の更新はその一環。ほかにも、3年間かけて約2万個の照明をすべてLED化。年間1億円ほどかかっていた電気代を半分に抑えることができたという。同時に、場所ごとにふさわしい色味と照度に調整するなど細部にまで目を行き届かせている。橋本さんによれば、特にメインロビーなどにあるシャンデリアの色味を再現するのに苦労したそうだ。
一方で、内装やインテリアは適切に補修し、竣工時の雰囲気を保っている。
「居住者には、この世界観を気に入って入居した方が大勢いるので、むやみに変えることはできません。例えば、無垢の木を使った天井や壁は年月を経て割れてしまう箇所も。直したとわからないよう修繕をするよう心がけています。ラウンジの家具や調度品も同様で、風合いを残しながら真鍮の部分を塗り直したり、布地の貼り替えをしたり。もともとよいものが入っていたので、安易に買い替えてランクを落とすことはできませんから。もちろん、補修・修繕は要望に応えてくれる技術の確かな専門業者に依頼しています」
守るべきところは守りながら、新しい技術も積極的に取り入れている。
「警備ロボットを試験的に入れたことがあります。夜間も含めて巡回するので賛否はありますが、今後の検討課題です。現在、進めているのはマンションのBIM化。BIMとはBuilding Information Modelingの略で、建物を三次元モデルで構築し、見える化するというものです。大規模修繕などの修繕工事に活用できるように準備を進めています。また、建物の状態を確認する際には、ドローンを活用して効率化していきたいと思っています」
管理組合が目指すのは、200年色褪せないマンション。都心のタワーマンションのモデルであり続けられるよう、その視線は次世代へと向けられている。