ロケーションは津田沼駅至近の再開発エリア「奏の杜」(かなでのもり)
2020年春から続いているコロナ禍において、私たちはさまざまな行動制限を強いられてきた。たくさんの人が集まって暮らすマンションにおいても、多くの制約が生まれたのはご存じのとおりだ。特に影響を受けたのが、住人交流を促すイベント、季節行事や防災訓練などだろう。中止、延期を決断する管理組合は後を絶たなかった。
ただし、そんな状況下でも、感染リスクを下げながら防災訓練を継続しているマンションはある。ザ・パークハウス 津田沼奏の杜(かなでのもり)もそのひとつだ。
物件が立つのは、JR総武線津田沼駅南口から徒歩3分の場所にある再開発エリア「奏の杜」。以前はニンジンを中心とした畑が広がる地域だったが、地権者と官民による土地区画整理事業で2013年にまちびらき。マンションや一戸建て街区、公園などが一体的に整備された。エリアは無電柱化され、植栽も豊富。美しく開放的な街並みが続く。
奏の杜エリア内のショッピングセンター「奏の杜フォルテ」もマンションの魅力を引き上げる存在だ。立地はザ・パークハウス 津田沼奏の杜の目の前。スーパーマーケット「ベルク」の大型店を中心に、「ファッションセンターしまむら」「サンドラッグ」や、「モスバーガー」「サイゼリヤ」などのカフェ・レストラン、クリニック、保育園など約25のテナントが入る。
また、スケールメリットを活かした多彩な共用施設も特徴だ。共用施設棟「ビオアリーナ」にパーティールーム、ゲストルーム、ラウンジなどがそろい、住人の人気を集めている。
東日本大震災、マンション落雷のアクシデントで防災が「自分事」に
ザ・パークハウス 津田沼奏の杜は、現在、奏の杜エリアに立つ10棟のマンションのなかでは最も早く、まちびらきと同年の2013年に竣工している。これまでの防災の取り組みについて、防災委員会委員長の安部さんに伺った。
「2015年3月に初めて、防災ワークショップなどを含めた防災訓練を行いました。初年から内容は充実していたと思います。具体的には、消防車見学、消防訓練、マンホールトイレの組み立て訓練、防災アドバイザーによるセミナー、宮城県南三陸町で被災生活のサポートを担っている団体による被災生活の実際のレクチャーなどを行いました。世帯の参加率は約47%でした」
防災訓練の参加率の低さに頭を悩ませるマンション管理組合も少なくないなか、初回訓練で約47%は高い数字だ。
「マンション躯体(くたい)に地震に強い免震構造を採用しているだけに、もともと防災意識の高い人が多いのだとは思いますが、決定づけたのは、2011年の東日本大震災だったでしょう。発生がマンションの販売時期に重なっていて、販売が一時中断されたりもしたことで、新生活を始める前から住人の皆さんは“地震、天災への備え”を自然と考えられていたのではないでしょうか。
そしてもうひとつ、2014年12月の夜に発生した季節外れの落雷による火災報知機誤作動のアクシデントも防災意識を高めたと思います。たくさんの住人がパニック状態になってメインエントランスのラウンジに下りてきたのですが、正確な情報がつかめず、皆さん非常に不安な思いをされました。当時管理室には管理員と警備員の2人しかおらず、マンション全体の混乱にはとても対応しきれなかったんです。この出来事も住人が防災を自分事として意識したきっかけになったと思います」(安部さん)
遊びの要素も採り入れ、子どもの防災意識も高める
翌2016年4月には習志野市の危機管理課や消防署と連携した第2回の防災訓練を実施。訓練の直前には熊本地震が発生したことで、前年よりもさらに多くの住人が高い関心を示し、参加率は約60%だったという。
「このときは、習志野市の危機管理監が行う講演会を、マンションの目の前にあるショッピングセンター『奏の杜フォルテ』で行いました。フォルテに来た一般の買い物客の目にも防災関連の講演会が入ることで、奏の杜エリアのマンションが真摯に防災対策に取り組んでいると感じていただくことが狙いでした」(安部さん)
防災委員会は前年から“準備”も進めていた。2015年、管理組合は、修繕積立金を段階増額積立方式から均等積立方式に変えるように提議し、その住人説明会を計9回実施。防災委員会は説明会の機会を利用し、2014年暮れの落雷のアクシデントもふまえながら防災の重要性を周知した。住人が主体的に防災対策や災害発生後の避難生活に取り組むことが大切です、と訴えたそうだ。その結果が先述した60%の参加率に結び付いた。
子どもを対象にした防災イベントも好評だったという。防災委員(防災士)の竹内さんが説明してくれた。
「例えば“サッカー×防災”。家庭内の地震対策として家具と家具を連結させると転倒事故が防ぎやすくなるのですが、その理屈を、皆で肩を組んでパスの練習をすることで体感してもらいました。また、ゲストルームを使って、倒れている人の安否確認をしてもらう疑似訓練も行いました。これ、実は“ドッキリ”の要素を含めていて、大人の人が倒れていることを子どもにあらかじめ知らせていなかったんですね。倒れている人を発見した子どもが慌てて非常ボタンを押し、警備会社が駆け付けたというハプニングもありました」
さらに普段は入れないマンションの管理室に入って、実際に非常時の館内放送をしてもらったり、夜間に災害が発生した想定で“夜の防災訓練”を実施したりもしたそう。“夜の~”ではツナ缶でランプをつくったりして遊びの要素も取り入れたそうだ。
「そうした体験を通じて、子どもたちにも防災に関する何らかの気づきを得てもらえれば良いと思っています」(竹内さん)
そして2017年には、ザ・パークハウス 津田沼奏の杜だけにとどまらず、奏の杜エリア内に竣工した他の2つのマンションとの合同訓練を実施。
「2016年の熊本地震の広範囲の被害を見て、うちのマンションだけではなく、再開発地域内の他の物件も巻き込んだ方が良いのではと感じました。そこで他の2物件の管理組合さんに『来年から合同で防災訓練をやりませんか』とプレゼンに行ったんです。皆で取り組めば相乗効果でさらに参加者が増え、より多くの気づきも得られるはずですし、奏の杜全体の防災力向上にも期待できる、良かったら一緒に取り組みませんか?と」(安部さん)
2018年にはさらにもう1物件が加わり、奏の杜エリア内に立つ計4マンションの合同訓練へと拡大。計画の中心的役割は、当初はザ・パークハウス 津田沼奏の杜防災委員会が担っていたが、今は街全体に広がっている。
コロナ禍のオンライン訓練でも参加率は70%超に
では、コロナ禍以降はどんな防災訓練を行っているのだろうか。
「直近の例では2022年3月ですね。このときのテーマは『発災・被災生活72時間をどう生き抜くか』。『72時間』は、阪神・淡路大震災で得られた生存率のデータと、人間が水を飲まずに過ごせる限界の日数の2点が根拠になっているものです。マンション防災は住人が互いに助け合う『共助』が重要とされていますが、まずは自分たちが生存し、余力がなければ共助をすることはできません。そこで2022年の訓練では“72時間”に着目したのです。全面的にZoomを活用したオンラインで行いました」(竹内さん)
このときの訓練には2020年4月に竣工した「津田沼ザ・タワー」(759戸)が参加。奏の杜内の4つのマンションと合わせて、約2700世帯という大規模な合同訓練となった。
「主に2つのプログラムを実施しました。まずは安否確認のリアルタイム中継です。被災直後、玄関ドアに貼る『わが家は無事です』を示す安否確認シートの数を担当者が数え、それを『災害対策本部』に知らせて、本部が集計する作業を配信。被災時、運営側がどう動くかを見ていただき、万が一のときに役立ててもらうことを意図しました。
次のプログラムはテーマに据えた『72時間をどう生き抜くか』。地震で大きな揺れが起きたとき、冷蔵庫や窓のそばからすぐに離れて身を守ること、停電でインフラがダウンした場合の被害想定、復旧する段階では通電火災という被害もあり得ることなどを、双方向でやりとりできるチャットやアンケート機能を活用して参加住人に考えてもらいました」(竹内さん)
ちなみにこのときの、ザ・パークハウス 津田沼奏の杜の防災訓練参加率は約70.3%。オンラインではあったが、第1回から変わらず続く、趣向を凝らした訓練内容が功を奏して、住人の高い防災意識を維持した。
共助の輪を広げる一方、大小の修繕も継続
新築時からここで暮らす安部さん、竹内さんは、理事会の第1~3期は理事として防災担当を務め、その後、独立した防災委員会の防災委員として今に至るまで活動を行っている。継続の原動力は何なのか。まずは安部さんに聞いてみた。
「防災訓練が重要なことはわかっているけど、定型的なものだと1度参加すればもうしばらくいいか、なんて思ってしまう人が多いですよね。実は私自身もそうです。でも、それなら、まずは自分が面白い、参加したいと思える防災訓練にできれば、企画するのも楽しくなるし、興味を惹く内容なら参加者も増えるはず、というのが防災委員になった理由ですね。
探究して、趣向を凝らすことで実際に参加率は上がったし、他物件や行政、三菱地所グループの社員の皆さん、コンサルなどもどんどん巻き込んで、より大規模で実効性のある合同訓練になりました。一方で毎回課題も見つかるのも確かなのですが、それをひとつひとつ改善するのも、またやりがいがあるから結果的に継続できていると思います」
次の竹内さんは極めてシンプルな答えだ。
「飲み会です(笑)。ま、最近はできていませんが。うちは妻と2人なので、子どもを介した近所づきあいがなく、仮に理事や防災委員を務めていなかったら、安部さんをはじめ理事、防災委員の皆さんとのつながりも生まれなかったし、こうしてSUUMOの取材を受けることもなかったでしょう。
防災士の資格を取ったのは2017年です。これも、このマンションに住んだからこその出来事ですね。取得した理由は、当初、防災訓練で、委員として自分が何を皆さんに発信するべきかをきちんと知りたかったから。おかげさまで取得後は目的どおり発信すべきことが整理できたし、毎年の訓練テーマ設定にも大いに役立っています」
管理組合理事長の安本さんは、「ザ・パークハウス 津田沼奏の杜のストロングポイントのひとつは間違いなく防災力。長く防災委員を続けている安部さん、竹内さんを含め、防災委員会の皆さんを本当に頼もしく思っています」と話す。
管理組合の課題を伺ったところ、大規模修繕工事ですとの答えが返ってきた。
「現在の予定では第12期にあたる2025年に第1回の工事を実施予定です。とりあえず建物診断を受けて、厳密な実施時期を見極めたいと思っています。
直近では、ほぼ築10年が経過して、少しずつ増えて始めている不具合にどう対処していくかですね。なかでも、中庭の芝生や敷地内外の植栽の再生を重視しています。芝生は、子どもたちが遊ぶうちに傷んでしまったので、傷みにくい種類の芝や土壌を試して、約1年かけて再生の具合を検証中。植栽は東京湾から届く海風の影響で、一部に枯れや塩害による傷みが発生していたため、塩害に強い樹種への変更を検討し、植え替えを行ったところです。
ここは新築時から暮らしていて当初の姿にこだわりを持たれている方が多いので、できるだけ竣工時の姿に戻し、維持していくことが目標です」(安本さん)
コロナ禍にもひるまず防災訓練を拡充して共助の輪を広げる一方、大小の修繕にも真摯に取り組む。ザ・パークハウス 津田沼奏の杜では、これからもソフト・ハードの両面で高いレベルが保たれ、快適で安心できる暮らしが送れそうだ。