30代で2度のマンションリノベーションを経験したからこそ言える、理想的な住まいのつくりかた

2016年に中古マンションを購入し、自宅をフルリノベーションした元建築家・編集者の小山和之さん。その経験と知見をまとめた2020年のnote「元建築家が自宅をリノベして考えた、リノベーションの教科書」は多くの読者に読まれ、リノベを検討している人たちの参考になると好評を博しました。

元建築家が自宅をリノベして考えた、「リノベーションの教科書」|小山和之 / designing

そんな小山さんも、実は初めてのリノベーションで「やり残したこと」や「次に活かしたいこと」も感じていたといいます。それから6年後、30代で2度目のマンション購入・リノベーションに臨んだ小山さんに、経験者だからこそ伝えたい「理想の住まいづくりのポイント」について、たっぷり語っていただきました。

小山和之|デザインメディアdesigning編集長/weaving代表取締役。デザインを伝える仕事に携わる

子どもの保育園を変えずに済む近距離の物件を探した

小山さん夫婦が2度目のマンション購入に踏み切ったきっかけは、2020年に子どもが生まれ、家族が増えたことだったといいます。住むエリアはどこにするか、新築と中古どちらを購入するか、施工会社選びはどう考えられたのでしょうか。

2016年に購入した最初の中古マンションは、あくまで夫婦ふたりで住むことを想定していたものでした。2020年に子どもが生まれたのを機に家族が増えても快適に住める家に引っ越すことを考えはじめ、2021年あたりから本格的に物件探しを始めました。住むエリアにはそこまでこだわりはなく、最初のマンションを購入した際も、実家がある千葉からそう遠くないエリアで、予算の範囲内に収まるところであればいいかなと考えていたくらい。ただ幸運にも、子どもが通いだした保育園がすごく良かったので、次の家でも同じ保育園に通える範囲内で家を探したい、と考えていました。

物件に関しては、実は当初は新築も視野に入れていました。住んでいたエリアだと新築もそこまで大きくは条件が変わらなかったからというのと、前の家が築50年弱で「次は、少し新しいのがいいな」という気持ちもあったからです。

間取りとしては当時住んでいた家は2LDKだったので、子ども部屋も加味して3LDK以上を条件で探し始めました。

ただ、新築のモデルルームを数件回って見たところ、内装が気に入るものが少なく、変更するにも決められた仕様の範囲でしか選択できない。仕上げに限らず、間取りなども変更できる範囲には非常に限りがありました。(※もちろん、引き渡し後に改装する選択肢もありますが、資源がムダになるし時間もかかるのであまり前向きには検討できませんでした)

これはある意味、一度リノベーションで好き放題した十字架のようなものだなと思い、最終的にはリノベーションに絞って検討を進めていくことに。進めていくにあたっては、「リノベ済物件の売却」「未リノベ物件のリサーチ・検討」「リノベ業者の選定」と売却・購入両面でリノベーションの理解が必要だと感じたので、リノベマンションを専門で扱っているサービスを利用して売却・購入とも進めていきました。

探していたエリアが狭かったこともあり、不動産情報サイトを毎日見ていても、出てくる物件の数はそこまで多くなかった印象です。結果的には、当時の家から歩いて行けるほど近距離の物件に決めました。

リノベーションの設計図。2LDKの物件をベースに3LDKに改修した

施工業者は、先述した仲介を担当してくれたサービスからの紹介で選定しました。前回設計・施工を担当した会社とのやりとりに苦労したので、その旨を伝えていくつかの選択肢を提示してもらい「設計的な提案というより施工面でのアドバイスをもらえるところが良さそう」「設計に関する要望をうまくくんでくれそう」など、自分たちに合いそうな特性を議論しながら選定していった形です。

「納まり」は妥協しつつ、積極的に「規格品」を選ぶように

無事に物件を見つけた小山さん夫婦は、購入した中古マンションの部屋を理想の住まいに近づけるべく、リノベーションの計画を進めていきました。1度目のリノベーションの経験を踏まえ、どうしてもこだわりたかった部分もあれば、反対にコストや手間を鑑みて妥協した部分もあったといいます。

前回(2016年)のリノベの際にも痛感したことですが、やりたいことをすべて実現しようとすると、やっぱり予算内には収まらなくなってしまうんです。それに、既存の建物にあわせて施工を進めていくというリノベの性格上、解体が始まってから初めてわかることもでてきてしまい「ここはどうしても希望通りにできません」と施工会社から言われることもあります。こればかりは仕方のないことなので、是が非でもこだわり抜きたいところでなければ、ある程度は妥協することも必要だと改めて思いました。

その最たるものが今回は「納まり」と呼ばれる部分でした。なるべく表に出てくる凹凸や見える継ぎ目などを減らし、シンプルで美しい仕上がりにすることを建築用語で「納まりがいい」というんです。

例えば洗面所やキッチンなどから出るダクトの配管をまっすぐきれいに出したいけれど、曲げられる範囲の限界でまっすぐは出せなかったり。天井は全て平らにしたかったけれど、配管の関係でどうしても一部は下げざるを得なかったり。部屋を仕切る垂れ壁の縁に木を張ったのですが、その納まりをフラットに仕上げるのが難しかったり……。

そうした細かな妥協がいくつも必要になりました。個々を見ると「たいしたことないじゃん」と思うかもしれませんが、そうした小さなこだわりの積み重ねが空間の印象を左右するので、その都度つらい気持ちになっていた覚えがあります。実際住んでみたら特に気になることは一切ないんですけどね(笑)。

アーチ型の出入り口もこだわったポイントのひとつ。本来は壁との境目を凹凸がないよう平らに仕上げたかった。スイッチのデザインや細かな照明の位置も地道に調整した

また、前回の経験を踏まえてあえて変更した部分もあります。それが「造作」をやめて「規格品」を積極的に選んだこと。一般的に「造作」と呼ばれる、現場で大工さんが一つひとつ作るものの方が「規格品」より仕上がりにこだわれるし、形状やデザインの自由度も高い。ただその分コストが高くなる傾向にあります。

前回は納まりを良くするためにも比較的造作を積極的に選んだのですが、規格品ではないゆえに、経年での劣化が気になったり、規格品と比べると機能面で劣るところがあったり、といった問題点も経験しました。そのため、今回はドア類などはほぼメーカーの規格品の中から選定。デザイン面ではやや妥協することになったものの、遮音性や動きのスムーズさなどは保障されていますし、生活していく中で壊れてしまっても換えのパーツも手に入りやすい。コストも下げやすくなるので、悪くない選択だったのではないかと思います。

自由度が高い分、オーダーキッチンはなるべく理想の具体化を

今回のリノベにおいて、小山さんがもっともこだわった箇所のひとつがキッチン。田中工藝というメーカーのオーダーキッチンを選んだそうですが、その決め手はどこにあったのでしょうか。

前回のキッチンは造作のもので、ガスコンロ、シンク、水栓、食洗機をすべて別々に買ってきて現場で組み合わせてもらうというつくり方をしていました。モルタルを塗ったキッチンがほしくてそういうつくり方を選んだのですが、見た目は最高に気に入っていたものの、先ほどのお話と同様で規格品ではない分、経年でのダメージが気になる側面もあったんです。

前の家のキッチン。モルタルで雰囲気はあるが、経年でのダメージ劣化が気になる側面も

そこで、今回のリノベではキッチンに関しても規格品にしようと最初から決めていました。
当初はシステムキッチンを見ていたのですが、なかなか家に合わせられそうなものがなく。今回の家がL型という少し特殊な形状だったこともあり
選択肢が少なかったのもありますが、設備面、意匠面、機能面と組み合わせていくと「これだ」となるものがほぼなかったんです。

そんな中で、田中工藝のオーダーキッチンがコストも高すぎず自由度が高い、という情報をたまたまSNSで目にして、ショールームに足を運びました。

今回のキッチンは黒で統一
天板の素材はセラミックを採用。汚れが拭き取りやすく、熱による跡もつかない。正面にも収納を確保した

オーダーキッチンと聞くと高価なものを想像されるかと思いますが、「とりあえず好き放題してみよう」と希望を全部載せて見積もりを出してもらったところ、意外にも国内のシステムキッチンと比べてあまり遜色ない良心的な値段だったんです。

もちろん、キッチン自体の形から天板の素材、引き出しの仕様や形状・中身、シンク、水栓、ガスコンロ、換気扇といった部分まですべて自由にセレクトできる。即座に田中工藝に決めました。「天板と側面のパネルとの間は少し隙間を空けて天板が浮いてるように見せたい」「キッチンの背面部分はすべて収納スペースにしたい」「足下は彫り込んでステンレスを巻いて仕上げたい」といった細かい部分に至るまでオーダーを聞いてもらえたので、かなり満足度は高かったです。

ただ、田中工藝に限らず、オーダーキッチンを選ぶ際は、自由度が非常に高い分、事前に自分たちの理想をきちんと具体化しておくことが大事だと痛感しました。Instagramなどで画像検索して好みのタイプをストックしておいたり、使いたい素材や設備類にあらかじめ当たりをつけておくのはおすすめです。加えて、選択肢が多いからこそ、ショールームで担当者に「この素材にすると何が変わるんですか?」と一つひとつ聞きながら、質感や使い勝手を実際に確認してみるのも失敗しない上では大切だと思います。

収納スペースは「漠然と広く」ではなく、用途を決めておく

マンションに住む上で誰しもが悩むポイントは、収納スペースをいかに確保するか。小山さんも、収納スペースを設けるにあたってはとても頭を悩ませたといいます。

子どもが生まれて物が増えたこともあり、収納スペースは以前よりもたっぷり確保したいという考えがありました。とはいえ、間取りの中で収納に割けるスペースはどうしても限られるため、とりあえずスペースだけ確保し使い方はあとから考える……という発想になりがちです。でも、実際引っ越してものを入れようとすると、思ったより小さかったり、広すぎて無駄になってしまう部分があったり。あとから収納家具や収納グッズを買い足していくも、結局どこかしらに隙間が生まれ、空間がムダになってしまうケースも多い。前回の家でそんなことが幾度もありました。

そうした事態を避けるために、今回はどこに何を収納するかをあらかじめ決めた上で収納スペースを取りました。例えば、廊下と寝室の間には奥行き90cm程度とれる収納スペースがありました。これはリノベ前は寝室が和室だったので、布団を入れておく押入として90cmもの奥行きの収納が用意されていたのですが、ベッド生活では奥行き90cmもの収納はなかなか活かすのが難しい。そこでリノベの際には、それを廊下側と寝室側で分割。寝室側は畳んだ服を収納するスペース。廊下側は日用品のストックを入れるスペースに分けました。

左:寝室側の洋服収納/右:廊下側のストック品収納

同様に、玄関横の収納もそこまで奥行きは必要なかったので、裏側は洗面所の収納スペースになっています。

その上で、収納するものが変わってもある程度は対応できるよう、収納スペースの中は基本的にすべて、高さ方向を調整できる可動棚にしています。

サンルームの壁面にある本棚。本のサイズに合わせて高さを細かく調整できる可動棚を採用

結果的に、これまでの家の収納と比べても、物を出し入れするのがかなり楽になりました。何を収納するスペースかをあらかじめ決めておくとは言ったものの、やっぱり子どもがいると部屋がすぐ散らかってしまいがちなため、とりあえず目についたものをまとめて収納に入れておけるようになったのは可動棚のおかげではないでしょうか。

特にマンションは住宅の寸法が物件によってバラバラなので、それぞれの場所の幅に合わせた収納家具をあとから買おうと思っていたのに、IKEAでもニトリでもジャストサイズが見つからない、なんてことはよくあると思います。どこに何をどのように収納するかは、ある程度、家をつくる時点で決めておくのがおすすめです。

思い切ってコストを割いた、仕上げと設備、機器

今回のリノベーションの中で、小山さんがキッチンと並んでこだわったポイントが「壁面」や「床」などの仕上げ。壁は自ら塗装を施すなど、手間を惜しまず、工夫を重ねたそうです。

今回とにかくこだわったのが壁や天井などの内装材、そして設備をはじめとする各種機器類でした。前回は比較的「デザインがいいものといえばこれ」「よく使われているのはこれ」とスタンダードなものを予算内で選定していったのですが、今回はリサーチを重ね、多少予算をオーバーしても気に入ったアイテムを一つひとつ選んでいきました。

床は無垢(むく)のオーク材をヘリンボーン張りと呼ばれる、木材を組み合わせてV字に配置していくやや複雑な張り方をしています。この張り方は板を1枚1枚カットしきれいに並べていく必要があるため、施工上は非常に手間がかかるもの。似たようなプリントのものも売られているので、施工会社には「コストを抑えたいならこれを変えた方が」と幾度も言われたのですが、ここはどうしてもこだわりたいポイントだったので、思い切って奮発しました。

塗装壁と無垢ヘリンボーン張りの床

壁は基本的には白ですが、ビニールクロスではなく塗装仕上げと水回りはタイルを選択。その上で、各部屋にアクセントとなる色を入れるようにし、他の機器類と合わせながら壁面も大胆に塗装で色を入れていきました。

基本色の白だけは一般的な塗料を使い、施工会社に仕上げてもらったのですが、その他は素材感や立体感が感じられるよう、あえてムラが出るPorter's Paintsという塗料を買い、自分で塗装しました。こちらもショールームに足を運び、サンプルを選定したのはもちろん、塗料の取り扱い、塗装方法までレクチャーしていただきました。

Porter's Paintsの塗装サンプル。色味に加えてテクスチャも選択できるため、相当な数の選択肢がある

他にも、スイッチプレートやコンセント、エアコンなどの空調機器、握り手、タオル掛けなどの金物まで......。さまざまな“部品”を徹底的に選定させてもらいました。施工会社からすれば細かくてうるさい顧客で本当に申し訳なくなりますが、施工会社の方に予算や入手性などを加味した候補を出してもらいつつ、自分でも建材のサンプルを一括で検索・取り寄せられるサービスを使ってさまざまな部品を何度も取り寄せました。

トグルスイッチ
リビングの塗装壁とキッチンのタイル。間に入れた見切りは真鍮

例えばエアコンは、一般的な壁掛け形の出っ張った感じや配管カバーが個人的には好きではないので、業務用としても使われる天井吊形や、天井カセット形を採用しました。これも配管のルートや設置位置などから施工会社に候補を出してもらいつつ、自分で調べたものを突き合わせてベターなものを選定しています。

リビングのエアコン。店舗などでも使われる天井吊形を選択

「自分のこだわり」と「プロ目線」のバランスが大切

リノベを施したマンションで実際に暮らしながら、塗装の色や収納の位置を変えるなど、現在も部屋のブラッシュアップを続けているという小山さん。2度のリノベを経験した率直な感想と、リノベを検討している方に向けたアドバイスを最後に語ってくれました。

床の施工中の様子。床の工事に時間がかかり工期が大幅に押してしまった

実は施工に入ってからは、フローリングを張る作業で想像以上に時間を要したこともあって、作業が当初の想定よりも大幅に遅れたんです。引っ越し日までに間に合わなかった箇所もあり、引っ越してから1カ月ほどは残工事が続いていて大変だったのですが、いまとなってはそれも思い出深いですね。

引っ越し先が前の家から近かったおかげで工事が進んでいく過程はつぶさに見ることができたので「あ、ここ、いい感じになってきてるな」という箇所が、新居に足を運ぶたびに増えていったのは大きなモチベーションになりました。疲れることも多かったのですが、やっぱり今回もリノベをして良かったなと思っています。

施工中の様子。徐々に壁が立ち、ものが入ってくるとテンションが上がる

現状の部屋に対する満足度は、70点くらいでしょうか。キッチンやリビングなど、とことんこだわりたかったところをこだわり抜けたのは大満足です。一方でマイナスなのは、間取りや用途を事前にかっちり決めすぎた点。冷静に考えれば当たり前なのですが、子どもが成長するにつれ、家や部屋に求められる機能は随時変化していきます。当初想定していた空間の使い方とズレが生じる部分もあったので、間取りや用途にある程度遊びを持たせておいたほうが、あとからカスタマイズがしやすかったかもしれません。

2度のリノベを経験した上での一番の学びは、当たり前に聞こえるかもしれませんが、「やりたいことを全部詰め込めばいいわけじゃない」ということ。間取りはもちろん、仕上げや素材、機器類に至るまで今回は比較的自分の好きなようにやりきれた感覚があります。ですが、それだけやったとしても、先述した「部屋の使い方」であったり、仕上げに関しても「もっとこうできたな」と振り返って反省することも多い。やっぱり場数を踏んでいるプロの設計士や施工会社の視点を借りるのも大切だなと感じています。

とはいえ、前回のリノベでは設計士との間にミスコミュニケーションが生じ、結局ほぼ自分で図面を起こす形になった苦い経験もあるので、プロの意見だけをうのみにするのも違うと思いますし、自身にとってちょうどいいバランスを探すのが納得度を上げる秘訣(ひけつ)なのかもしれません。

こだわり=善、妥協=悪とは必ずしも言えないことを2度目のリノベで悟った

コミュニケーションという面でいえば、もうひとつ。家族や一緒に住む人がいる場合、お互いが目指したい部屋のイメージを明確にして共有する作業もしておくべきでしょう。自分の場合は、妻とお互いがいいと思う部屋の画像をストックしておく共有アルバムをつくり、それをもとにどんなイメージの部屋にしていきたいか、相談を重ねてきました。

集める段階では「なんとなく好き」とか「センスいいと思う」「こんな家住みたい」といったざっくりしたイメージでいいのですが、可能なら「それがなぜ好きか」「どんな点にときめくか」といった部分を言語化するところまでできると、より齟齬(そご)が生じづらくなるような気がします。例えば「コンクリート打ちっぱなしの壁」がいいと感じる場合、コンクリートの素材そのものが好きだったり、あるいは表面がデコボコしていることによって生まれる立体感が好きだったり、理由はさまざまですよね。後者の場合は必ずしもコンクリート素材を選ばなくても、塗装による工夫で好きなテイストを表現することも可能です。リノベにおいて「好き」の言語化は、設計前にやっておくべきとても大切な作業であると言えるでしょう。

構成:生湯葉シホ
写真提供:小山和之
編集:はてな編集部