住宅内の配管の耐用年数は、今、新築住宅で使われているものは30年~40年といわれています。給水・給湯・排水と大切な役割をしている配管の寿命について知り、適切な対応をしましょう。中古住宅などのインスペクションで古い配管の状態に詳しい、ホームインスペクター田村啓さん(さくら事務所)、および一級建築士の柏崎文昭さん(甚五郎設計企画)にお話を聞きました。
記事の目次
配管は古くなるとどうなる?
築古の家では配管も古くなっています。その場合、どのような現象が起きがちなのでしょうか?ホームインスペクションの専門家に話を聞きました。
配管が古くなると錆びて水漏れのおそれも
住宅内の配管は、家の中に水やお湯を運んだり、外に排水したりしているものです。
築古の住宅などを数多くインスペクションしてきた、さくら事務所のホームインスペクター田村さんに古くなった配管の現象を聞いてみました。
「築40年を超える住宅では鋼管が使われていることが多く、配管の内部が錆びたり、接続部が錆びたりして、サビを含む赤茶色の水が蛇口から出たり、接続部から水漏れしたりする現象が多く見られます。また、配管内にサビが発生すると配管の口径が小さくなってしまい、常に漏水のおそれがあるのです」
問題になりやすいのは排水管よりも体に直接影響する給水・給湯管だといいます。
どのような場合にこういった現象が起きるのかを述べる前に、そもそも住宅内の配管はどうなっているのか基礎的な知識をおさらいしておきましょう。
住宅内の配管の種類と役割
住宅内には3種類の配管が通っています。まずそれぞれの役割について見ていきましょう。
住宅内配管には給水管と給湯管、排水管の3種類がある
住宅内の配管は外から引き込んで給水する給水管、それをお湯に変えて供給する給湯管、外に排出する排水管の3種類があります。それぞれの役割を次に紹介します。
給水管の役割
給水管は、 外部から引き込んだ浄水後のきれいな水を家庭内の必要な箇所に配っています。上図のように浴室やキッチン、トイレなどに給水し、庭に散水栓があればそこにも水を送ります。敷地内に止水栓と水の使用量がわかる水道メーターがあります。
給湯管の役割
給湯管は、ガスや電気の給湯機器で水を温めてお湯に変え、それを浴室、キッチン、洗面に送っています。給水管と同じきれいな水を送っています。
排水管の役割
排水管は、それぞれの水まわりで使われ汚れた水を下水管に送っています。下水管に到達する前にゴミ等の除去のため、排水マスを通ります。天ぷらやフライの廃油やゴミを流してしまうなどによって配管が詰まることもあるので注意しましょう。
住宅内配管は壁の中を通す配管と床下配管がある
住宅内の配管は一戸建てもマンションも基本、床下を横方向に通っていますが、壁の中を縦方向に通っているものもあります。
とくにマンションでは、縦配管と横配管を適宜に用いています。
したがって、配管リフォームは床下や壁内の配管を修理したり、交換したりすることになります。
配管の寿命はどれくらい?
配管はどれぐらいの年数で取り替えるべきなのでしょうか? 公的な指針や素材による違いも見ていきましょう。
国交省のガイドラインでは30年~40年
まず、公的にはどのような指針が示されているのかを見てみましょう。
国土交通省では、マンションの長期修繕計画におけるガイドラインを策定しています。共用配管が対象ですが、それによると共用給水管・排水管ともに更生は19年~23年、取り替えるのは30年~40年ごととしています。
ここでいう更生は鋼管の内側に特殊な樹脂を流してコーティングすることです。
ガイドラインではマンションの長期修繕計画の参考に、配管の交換は30年~40年ごとを目安としていますが、実は配管の素材の種類によって違ってきます。
時代によって採用される配管の素材は変わってきた
配管は時代によって使われる素材が変わってきました。素材によっても配管の寿命は異なります。
現在の給水・給湯管はポリエチレン管が主流
配管の素材は年代ごとに変化してきました。それについて、ホームインスペクターの田村さんは、次のように述べています。
「1960 年代ごろの住宅に多く見られたのは亜鉛メッキ鋼管です。鉄に亜鉛メッキを施したもので、長く使っていると内部が錆びて赤茶色の水が出たり、あるいは腐食することで管の厚みが薄くなって最終的に穴が空いて漏水の原因となったり、接続部に穴が空いて漏水するということにつながります」
先に述べた錆びる配管とは亜鉛メッキ鋼管のことです。
亜鉛メッキ鋼管は現在では新規の採用が禁じられ、塩化ビニール管やポリエチレン管への交換が推奨されています。
「1970年代ごろから戸建住宅やマンションの住戸の専有部の配管は塩化ビニール管が中心になりました。錆びず、腐食しないのでほとんど問題が起こらず、非常に長持ちする素材です。注意点としては排水に熱湯を大量に流すようなことをすると塩化ビニール管が変形してしまうことがあります」
「塩化ビニール管は今でも排水管を中心に使われています。給水・給湯管も以前は排水管と同様に錆びる亜鉛メッキ鋼管や内部に樹脂をコーティングした塩化ビニールライニング鋼管などが使われていましたが、現在はほとんどポリエチレン管に変わっています。あるいは錆びないステンレス鋼管が使われているケースもありますが、住戸内では一般的にポリエチレン管が利用されています」
塩化ビニール管と給水・給湯のポリエチレン管の登場で、サビの問題に終止符が打たれたというわけです。
「ポリエチレン管は、さや管ヘッダー工法といって、筒状になっていて、内部にもう1本管がある二重構造の配管工法に使われています。柔らかくて曲げやすいことから接続部も限られるため水漏れもほぼありません」
さらに工事も以前の素材に比べて簡単なので、最近は新築もリフォームもこの配管に置き換わっているようです。
メンテナンスが容易な「さや管ヘッダー工法」
前述のように「さや管ヘッダー工法」の配管はさや管とポリエチレン管の二重構造になっています。
保護するための管となる「さや」の内部に給水・給湯管が通っていて、管の途中には継ぎ目がありません。水漏れがほぼなく、古くなった配管の交換は中の管を引き抜いて行います。壁や床を壊す必要がありません。
内部の管は30年~35年、外側のさやは60年程度の寿命だといわれています。
比較的容易に給水・給湯管の交換ができるため、住まいを長持ちさせるのに貢献する配管素材です。長期優良住宅化リフォームではこの配管が使われます。
配管の実際の耐久年数(寿命)は素材によって異なる
では、配管の素材ごとにどれだけもつのか耐久年数(寿命)の目安を見ていきましょう。
亜鉛メッキ鋼管はいますぐ交換
亜鉛メッキは鉄に亜鉛メッキを施した素材で、現在水道用には使用できません。
1960年代ごろまでは普通に使われていましたが、腐食しやすく15年~20年程度しかもたないことから現在では使用禁止になっています。
ですから、自宅の配管に亜鉛メッキ鋼管が使われている場合は即交換を検討しましょう。
塩化ビニールライニング鋼管は約20年~25年
塩化ビニールライニング鋼管は鋼管の内側に特殊な樹脂を流してコーティングしたものです。樹脂コーティングによって錆びにくくなりましたが、継ぎ手の問題などから寿命は20年~25年程度といわれています。
塩化ビニール管は約40年~60年
塩化ビニール管は、コストが安く、施工もしやすく、かつサビや腐食の心配がないことから現在、排水管を中心に多く使われている素材です。寿命は約40年~60年と長いです。
ただし高温や急激な温度変化に弱いので基本的に給湯管には適しません。
ポリエチレン管は30年~35年
ポリエチレン管は合成樹脂素材で、さや管ヘッダー工法の普及に伴い、現在は給水・給湯管に多く使われています。配管にほぼ継ぎ手がないのが特徴で、ヘッダーから分配して各設備機器へ接続して水とお湯を供給します。
この工法では、配管を交換する際は二重構造になっている「さや」の内部の樹脂管を引き抜いて行うことができます。メンテナンスの容易さも高く評価されています。
配管の替え時サインを見逃さない
配管の修理や交換が必要かを見極めるポイントを紹介します。
水漏れする
水漏れはパッキンの劣化による場合もありますが、配管そのものが古くなって腐食や破損を起こしている場合もあります。配管の交換が必要なケースもあるので、水道業者にチェックしてもらいましょう。
サビ・濁り水が出る
赤茶色のサビが出るのは、道路の水道工事やマンションの場合は貯水タンク内の問題も疑われます。いずれでもなければ配管内のサビが溶け出して水に混じっているためで、配管が劣化しているケースが疑われます。白っぽい濁りはとくに問題がないことが多いので、水を流しっぱなしにして様子を見ましょう。
水の出が悪い
水の出が悪いのは、止水栓が閉まっている、水道管にゴミがたまっている、冬期の凍結などの原因が考えられます。いずれも該当しない場合は、配管が劣化して、サビによって内径が狭くなっている場合もあります。その場合は配管の交換が必要です。
不具合の兆候が見られたら早めに対処を
「配管の寿命が近づき、不具合の兆候が見られたら、本格的に不具合が発生する前に交換するのがベストです。放置して水漏れが起きてしまうとその被害は甚大です」
水漏れや詰まりなどの現象が見られたら、リフォーム会社や水道工事会社、ホームインスペクターになどに依頼して調査してもらうのがよいでしょう。
マンション配管リフォーム工事の注意点
マンションの場合は一戸建てとは異なる特有の問題があります。どこに気をつけるべきなのかを説明しましょう。
配管方法によっては交換できない
マンションの配管は、現在は一般的にスラブと床材との間に空間をとって二重床として、その空間に配管を通しています。
その場合、配管が古くなれば交換することができます。
しかし、古いマンションでは、床スラブを貫通して階下の天井裏に配管しているケースや、スラブに埋め込んでいるケースもあります。
「配管がスラブを貫通しているような場合、その部分が誰の所有になるのかの確認が必要ですが、いずれにしても工事となると、階下の住人の了承を得なければならないなどの問題があり、現実的には、配管交換は難しいです。実際に工事はできないと思ったほうがよいでしょう」(ホームインスペクター田村さん)
「既存配管の交換ができないとなると、その配管は埋め殺しにして使えなくします。そうして新たにスラブの上に配管を行い、二重床にリフォームするのが一般的です」
排水勾配の関係で配管の延長には限度がある
マンションのリノベーションでキッチンの移設を行うケースが多いですが、この場合、配管の移設や延長が伴います。
配管の延長距離には限界があって、共用配管へ排水を流すための勾配がとれる距離までです。二重床の空間の高さがどれくらいあるかで勾配は決まりますが、床を高くするとその分、天井との距離が近くなるので限界があります。
どれくらいのキッチン移動ができるのかリフォーム会社に相談しましょう。壁付けキッチンを対面キッチンに変えるくらいの配管の延長は大抵の場合大丈夫です。
また、マンションでも壁式構造の場合は撤去できない壁があり、その壁の位置によっても配管の延長距離が影響を受ける場合があります。プランニングの段階でそれを考慮しておきましょう。
配管交換は、大規模リフォーム時が最適
マンションの配管リフォームは、床材を剥がして行う必要があります。壁配管の場合は壁を剥がして行います。
したがって、床や壁の解体と再仕上げが必要なので、内装リフォームや間取り変更などを行うときに併せて行うのがよいでしょう。
一戸建ての配管工事は床下にもぐってできる
一戸建てはマンションと違って床下にもぐることができます。配管リフォームも床下にもぐって行えば大掛かりな工事にならずに済みます。
配管の修理メンテナンスは床下または天井裏で
一戸建ての配管リフォームの方法について、一級建築士の柏崎文昭さんに聞きました。
「一戸建ての場合は、床を剥がしたりしなくても、床下にもぐって配管の修理や交換ができます。2階に水まわりがある場合は、天井板を一部欠き込んで、そこから作業ができるので、全面解体のような大掛かりな工事にならなくて済みます」
「床下にもぐり込めない場合は、外壁の壁面に配管をまわしてお風呂などに外側から給水を行うことも可能です。その場合は配管が外壁に露出してしまいますが、床や壁を剥がすのに比べるとコストは安くなります」
マンションに比べると一戸建ての配管リフォームは、比較的低コストで済むようです。
もちろんスケルトンリフォームなど大掛かりな工事の際に併せて行うこともできます。
配管交換リフォームの費用の目安
さまざまな方法のある配管リフォームですが、費用について知っておきましょう。
給排水管の交換費用は約15万円~
配管リフォームの費用について柏崎さんは15万円程度からできるといいます。
「配管の工事費用は作業員が2人来て1日で終わるような工事ですから15万円程度からできます。配管工事そのものは多額の費用がかかるものではありません。ただ、床を剥がしたり再施工したりといった工事になると、解体や内装工事費がかかるので、その金額ではできません」
床・壁の解体・復旧工事が必要な場合はプラス50万円~
内装工事が必要になると、施工範囲や材料のグレードなどで費用は変わってきます。
50万円程度のプラス金額は必要になるでしょう。
マンションのキッチン移動の際も同様ですが、他のリフォーム費用が加算されるので、リフォーム会社に見積もりをもらって、正確な費用を把握しましょう。
配管リフォーム交換工事の実例
では、実際に配管リフォームを行った実例を紹介しましょう。
※以下のリフォーム費用は施工当時のものです。現在とは異なっている場合があります。
水漏れしていた配管と併せてユニットバスを交換
配管工事は古くなった水まわりの設備交換と同時にやることも多いです。
この事例は水漏れで困っていた配管をユニットバス交換と同時に更新。安心して快適なお風呂に入れるようになりました。
【DATA】
リフォーム費用(ユニットバス・配管):192万円
種別:マンション
工期:1カ月
築年数:30年超
設計・施工:ライズホーム
水まわりリフォームの機会に配管も一斉に交換
管理組合より水まわりリフォームの際は給排水管を全て交換してくださいと通達が来ていたので、キッチン、バス、トイレなど水まわりの機器を全て交換するとともに配管も交換しました。
【DATA】
リフォーム費用(キッチン、バス、トイレ、内装、配管):400万円
種別:マンション
工期:1カ月
築年数:26年~30年
設計・施工:Cornus(コーナス)
配管リフォームの補助金
配管リフォームは長期優良住宅化リフォームの補助金の対象になっています。
長期優良住宅化リフォームの補助金
長期優良住宅化リフォームの補助金は、国の事業で既存住宅の長寿命化や省エネ化等に貢献し、一定の要件を満たす性能向上リフォームを行う際に補助が行われるものです。
一戸建ておよび共同住宅が対象となっています。
共同住宅は建物全体が対象なので、個人としては一戸建てリフォームが対象となります。
補助金はリフォーム全体に出るのではなく、個々のリフォーム工事に関して出ます。
補助を受けるために必須の工事は、構造躯体の劣化対策、耐震性、省エネ対策などとともに住宅性能向上の基準の一つになっているのが「維持管理・更新の容易性」です。
「維持管理・更新の容易性」の内容は、給排水管を点検・清掃・交換しやすくするというもので、既存配管を「さや管ヘッダー工法」に変える工事などが対象になっています。
補助金額(2023年度)は省エネなど必須工事等を行った上で最大で100万円もしくは200万円(性能による)。三世代同居などで50万円が加算されます。
配管リフォームのみではこの補助金は得られませんが、住まいの長寿命化と性能向上を図って大規模なリフォームを行う計画がある人は注目しておきましょう。
敷地内への引き込み管の交換に自治体から補助金
屋内配管ではありませんが、道路内の配水管から家庭への引き込み管のうち、水道メーターまでにある老朽化した鋼管などの給水管を交換する工事などに補助金を出す自治体があります。
例えば横浜市では、老朽化した給水管をステンレス管に交換する工事費用を水道局が負担する制度があります。
お住まいの地域に引き込み管や排水管の交換費用を補助する制度がないか、確認しておきましょう。
まとめ
- 住宅内配管には給水管・給湯管・排水管の3種類があります
- それぞれの年代で多く使われてきた配管の素材は異なり、素材によって寿命が異なります
- 鋼管(鉄管)は錆びるので、現在では新規に使われることはありません
- リフォームでも、今では排水管は塩化ビニール管、給水・給湯管はポリエチレン管に交換するのが一般的です
- ポリエチレン管は施工性やメンテナンス性がよく、長期優良住宅化リフォームの維持管理面ではポリエチレン管を用いた「さや管ヘッダー工法」への交換が要件となり、補助金も出ます
取材協力/ホームインスペクター田村啓さん(さくら事務所)
取材協力・監修/柏崎文昭さん(甚五郎設計企画)
構成・取材・文/林直樹
イラスト/桔川シン